■プログラムのねらい

プログラムのねらいは,自尊感情の向上,本物の自然の中での感動体験の獲得,道徳力の向上を実現することである.

(1)自尊感情の向上

自尊感情は,「人が自分自身についてどのように感じているか,その感じ方であり,自己の能力や価値についての評価的な感情や感覚」(堀,2001)と定義されるのが一般的であり,自己概念の評価的側面かつ感情的側面を表す自己概念の一部と考えられている(荻野,2012).高い自尊感情を身につけている子どもは,社会的な場面や学校で学業に取り組む際に自信を持ちやすく,高い自尊感情とは,自信があり,自分自身や自分の能力について現実的に肯定的な見方ができる者を示すのに用いられ,自尊感情を高める小集団活動として冒険が取り上げられている(デニス,2008).冒険と自尊感情の関係について,冒険プログラムによるカウンセリングでは,「成功」を体験できるように計画された冒険活動によって,失敗を繰り返す悪循環から脱け出し,自分に自信が持てるようになり,心の成長に欠かせない「冒険」にあえて挑戦しようとする勇気を持つことができると考えられている(ディック,P・ジム,S.・ポール,L.,1997).そこで,本プログラムでは,チャレンジを伴い成功体験が味わえるような例えば,ロッククライミングやスキー,サーフィンといった活動を採用し,また活動の中に,未知の体験となるような冒険的要素を積極的に取り入れた.

(2)本物の自然の中での感動体験

「21世紀を展望した我が国の教育のあり方について」(第一答申)(文部科学省,1998)において,自然や美しいものを見て感動する心が生きる力の一部であり,今日欠けている,豊かな人間性の1つとされている.平成14年度の学習指導要領(2002)では「生きる力」の1つに「自ら律しつつ,他人と協調し,他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性」を含んでいる.また,青少年の野外教育の振興に関する調査研究協力者会議(1996)は,野外教育に期待される成果として,自然の美しさ,雄大さ,神秘性,厳しさなどは直接人間の五感に働きかけ,人々に感動や驚きを与え,青少年の感性を育み,知的好奇心や探究心を育むことであるとしている.自然体験活動指導者手帳(自然体験活動推進協議会,2002)は,自然の神秘に満ちた不思議な力に合うとき,人は深い感動と安らぎを得ることができるとしている.また,野外教育は感情体験の提供を主要な目的の1つと考えた高見(2007)は,「あなたの気持ち・心が弦楽器だとすれば,今回のキャンプでどのくらい大きな音を響かせましたか」という感情体験の総合評価を心の琴線尺度として自己評価させた結果,野外教育の意義が「心の琴線に触れる体験を通した自己価値の発見」であるとしている.こうした神秘的な自然とは人工的でない本物の自然の中でめぐり合うものであり,本物の自然の中での感動体験は,豊かな人間性を育むと同時に,人間と自然の関係を深く理解するものと考えられる.

そこで,本プログラムでは,極力人工的な要素は排除し,可能な範囲内でキャンプも施設を使わずに野宿できるフィールドを選び,必要最小限のシンプルなキャンプスタイルでプログラムを実施した.また,手軽な自然ではなく,1日以上かけて深く自然に入っていく白馬登山や,数日間ビーチでキャンプする沖縄キャンプ,富士山の麓の樹海の中でのキャンプを実施し,厳冬期には富士山でのソリ体験や白馬でのバックカントリースキーなどの冬山の厳しさに触れ,海では自分の背より大きな波の中に飛び込むような活動をプログラムとして取り入れた.

(3)道徳力の向上

今日,文部科学省は生きる力を知徳体のバランスのとれた力とし,学習指導要領(2008)の中でも豊かな心を育むために道徳教育を充実させる方針を打ち出している.

本プログラムでは,道徳力を「共感」,「自制」,「良心」,「親切」,「公平」,「寛容」に分類し(ミシェル,2005),プログラムの全ての局面において遭遇する様々な場面で鍛えられると考えた.「共感」は他人の気持ちになって思いやりを持つこと,「自制」は目の前の楽しみを我慢して,他人が喜ぶことをすること,「良心」は良いことと悪いことを見分けられるようにすること,「親切」は友達に親切にして困っている人がいたら助けることである.また「尊敬」は友達を大切にして自分自身も大切にすること,「公平」はルールや順番を守り,同じ分だけ分け合うこと,「寛容」は広い心でどんな友達とでも同じように仲良くすることとそれぞれを定義した.さらに,メンバー間の信頼関係を強化する取り組みとして,フルバリュー・コントラクトをプログラムに導入した.フルバリュー・コントラクトとは,グループメンバーの努力を肯定的にお互いが評価する冒険プログラムのカウンセリング手法(高見,2007)であり,何度もこれを実践的に重ねることで道徳力が高まりやすい環境を創出した.

■プログラムの内容

プログラムは通年,季節に応じてバラエティに富んだ活動をおよそ全25回実施している.

4~6月は春のプログラムとして,初心者キャンプ,樹海ケービング・キャンプ,シーカヤック,ジュニアライフセービング大会,大島キャンプを実施した.初心者キャンプは,新規会員となった子どもやまだキャンプをしたことのない子どもを対象に1泊2日で行った.完全な自然の中ではなく,宿舎の庭にテントを張って,たき火して自炊に挑戦する樹海ケービング・キャンプは,すでにキャンプ経験のある子どもを対象とし,鳴沢の樹海を散策し,富士風穴の中に入いいた.シーカヤックは1デイで江の島を1周し,ジュニアライフセービング大会は神奈川県ライフセービング連盟主催のライフセービング大会にチームで参加した.本プログラムにおけるライフセービングの位置づけは,体力向上と命の教育の実践であり,スポーツを通して海で泳ぎ,波に乗ることで海の危険を体で覚えること,海で積極的に遊べるようになること,自分の身をもって自他の命の大切さを学ぶことである.大島キャンプでは,活火山の三原山の麓の海で,地球のエネルギーを感じながら,スノーケリングをした.実際に魚をとり,それを食すことをキャンプの中で完結させることで,自給自足生活を体験することがねらいであった.

7~8月の夏のプログラムとして,朝練,シャワークライミング,サーフィン教室,勉強キャンプ,ウィンドサーフィン教室,サマーキャンプを行った.朝練は,夏休み期間中,土日を除いて毎朝5時30分から8時まで,片瀬西浜海岸にて,泳ぐ,走る,パドリングをメインに海のコンディションに合わせて様々なアクティビティを行った.また夏休み中,シャワークライミング・キャンプは丹沢の沢を遡行しながら河原でキャンプをした.勉強キャンプは,主に算数の基礎と夏休みの宿題を涼しい時間帯にやり,それ以外は海で遊ぶというメリハリをつけた合宿を行った.サーフィン・ウィンドサーフィン教室は身近なマリンスポーツの経験の幅を広げ,生涯スポーツの土台をつくることがねらいであった.サマーキャンプは,2011年まで奥利根で登山中心のキャンプを行っていたが,2012年から沖縄の備瀬ビーチで野宿キャンプを行った.

9~12月前半の秋のプログラムとして,富士登山キャンプ,白馬登山,セーリング教室,ロッククライミングを行った.日本一の富士山をただ登るだけでなく,富士山を感じることをテーマとした.そのため5合目から頂上を目指すだけでなく,1,2合目あたりをフィールドに夏・秋と厳冬期のそれぞれの表情を体験した.白馬登山は,毎年1回は大きな山に登ることにしており,ここ数年白馬岳山頂に様々なコースでアプローチしている.セーリングは江の島で子ども用のOP艇に子どもだけでのり,自ら操縦体験をした.ロッククライミングは,湯河原の幕山公園で行った.まずはトップロープで基本的な登り方と降り方,ビレーの仕方を覚えたら,最終的にロープをつなぎながら登るマルチピッチ法で頂上直下まで目指した.

12月末から3月までの冬のシーズンは,テレマークスキー教室,XCスキー・スノーキャンプ,富士山そり,バックカントリースキーツアーを行う.雪上のプログラムをメインに,テレマークスキー教室は,ヒールフリーのビンディングで滑降だけでなく登りながらスキーを操作することを覚えていった.XCスキー・スノーキャンプは妙高青少年自然の家を利用し,宿舎に泊まりながら雪洞づくりを実際に体験した.富士山そりは厳冬期の富士山に入り,二合目あたりで大滑降をし,普段遠くから見る真っ白の富士山の中に自分がおり,目の前の富士山のスケールの大きさを体感することをねらいとした.た.バックカントリースキーツアーでは,夏に登ったコースを途中までスキーで行くことで,白馬三山を目の当たりにし,その中に入り込むことによってスケールの大きさを体感し,さらにスキーで整備されていない雪の中を滑ることをねらいとした.

いずれもちょっと気を抜けば遭難するような厳しい自然の中に入っていき,そこで自然のすごさを体感し,かつ最高に楽しいと思える活動を選択し実施した.

◇樹海ケービング・キャンプの様子

樹海ケービング・キャンプでは,「経験したことのない暗闇に戸惑いながらも,徐々に状況を受け入れていた」,「最後に身体がやっと通れるほど小さな穴の中に身体をねじ込んだときは興奮が最大となり,子ども達から『まじヤバイ』,『これが本物の冒険だ』という声が聞こえた」等冒険の真骨頂を味わった様子であった.

 

◇大島キャンプの様子

大島キャンプでは,「自分達だけで素早くテントを立てた」,「『海がきれい』,『魚がすごいいる』と海のきれいさに感動していた」,「夕方5時を過ぎても海から上がろうとしない」,「炊事は慣れたもの,既に役割分担ができている.既に暗いが,皆協力的で,進行がスムーズで整然と夕食の準備終了.」,「2日目,雨.それでも準備をすまし,海へ移動.全員ウェットスーツを着ているため寒さであがるものはいない.とりつかれた様に夢中になっている」等と,テント設営や炊事などの協力的な様子と時間を忘れて遊ぶ様子が印象的だった.

 

 

◇ライフセービング/朝練の様子

ライフセービングの大会に出るために夏休みに毎朝5時30分から実施した朝練習では,「子ども達の身体が海に順応してきた」,「波と戯れて楽しみ,延々と繰り返し遊んでいる」,「練習が終わった後も海に入ったきり,あがってこない」,「大きな波に対して,この波に乗ったらどうなるかわからないと不安と戦いながらチャレンジし,揉まれて無事を確認すると,これなら大丈夫と自信を持って沖に向かってく」等,毎日繰り返し継続的に波と戯れることによって,怖い海が少しずつ楽しい海に変わっていき,ここまでなら大丈夫という自己判断能力を身につけていく様子が伺え,また,波や海が子ども達にとって魅力的な存在であること認識した.

 

 

◇シャワークライミング・キャンプの様子

シャワークライミング・キャンプは,異常発生しているヒルに悩まされ,「K君(小4)とH君(小4)は『もう絶対きたくない』と激怒」,「夜の豪雨で,Aちゃん(小5)のテントの中が浸水し,寝袋までびしょ濡れになる」,「皆,寝不足」と,子ども達は,惨めな思いをしながらもめげずに続けたが,精神的に厳しい体験だった.

◇沖縄キャンプの様子

沖縄キャンプでは備瀬のビーチにテントを張るがほとんどの子どもはそのまま砂浜に寝る.「子ども

 

 

たちは沖縄に限らず外で寝るのが好き」,とくに「ここは数メートル先に聞こえる波音を子守歌に,満点の星空の下で寝るのは最高の贅沢」である.運がよければウミガメの産卵やウミガメの赤ちゃんが海に帰るシーンを見ることができるが,「最初は感動するが,次第にそれが当たり前となり,感動というよりはこうした自然の神秘さや不思議さを実感し,自然界を見守る目へと変わっていく」.沖縄ではサバニとシュノーケリングがメインである.「海遊びのベースがあるから何をやっても楽しめる」.「やんばるの森の中に沢を見つけた.水量も十分あり,沖縄で,真水で遊べる環境は貴重である」.ここでも子どもたちは滝つぼへのダイブを存分に楽しんだ.

 

 

◇富士登山キャンプ

富士登山キャンプでは,夜中の12時に5合目を出発しご来光を見るはずだったが「午前2時,7合目付近,I君が高山病と低温症で泣き始める」,「Y君(小4)が,めがねが曇り,前が見えずに目をつむり,意識も薄れた状態で歩き,何度も転んだ」,「辛そうな子に対して,『Y,大丈夫か』,『Iがんばれ』という声が何度もあった」,「I君(小4)は『もう二度と富士山には登らない』と言っていた」,「『まだ行ける,行きたい』と身体をがたがた震わせている子もいる」,「午前2時30分,7合目半,横殴りの雨と立っているのがやっとの強風,ここが限界.これ以上行っても天気は回復しないから戻ろう,というガイドの言葉で納得する様子」など,子ども達の限界を超えて自然の猛威に触れる体験であった.

 

◇白馬登山

白馬登山では,白馬大池にテント泊し,早朝に白馬岳のピークを目指す本格的な山行にチャレンジした.「Mちゃん(小3)と,Aちゃん(小5)は荷物の重さに圧倒され,なかなか足が進まない.」,

 

 

ト泊し,早朝に白馬岳のピークを目指す本格的な山行にチャレンジした.「Mちゃん(小3)と,Aちゃん(小5)は荷物の重さに圧倒され,なかなか足が進まない.」,「『頂上まだ』,『ここ頂上じゃないの?』と何度も尋ねられ,先の長さに心が折れている様子」,「『超きれい』,『すごい』,『こんなのはじめて見た』とご来光に感動している様子」,「小蓮華岳山頂でY君(小4)が『もうここまでにしようかな』と弱気になる」,「小蓮華岳山頂でMちゃんは『もうここでいい』と自分で判断」等,本物の自然と触れ合う中で自然の迫力に圧倒されながら,自己の挑戦に挑み,それぞれが達成感を味わい,それを互いに共有できる素晴らしい山行であった.

◇セーリング教室

セーリング教室は,同じ海でも日ごろのビーチでの活動とは違う沖の海を体験できる.「目に見えない風を感じなければ,上手く操船できないことから,体感が研ぎ澄まされる」.「自分で舵を握り,セイルに風を張らんで進む感覚はたまらない」,「感じることに集中している」様子が見られた.

 

 

◇ロッククライミング

ロッククライミングでは,「自分の登る番を順番待ちし,子ども達のやる気を感じた」,「40~50分同じセミ(動けずにじっとしている状態)になってもまだがんばろうとしていた」,「がんばって登っている子を下で待っている子ども達が,登りきるまで声援を送った」,「登れないルートを何度も交代でチャレンジしていた」等と,子ども達が自発的に仲間を励まし,応援するシーンが幾度も見受けられた.

 

 

テレマークスキー教室では,「スキーが終わって暗くなっても皆外で雪遊びをしている」,「集合時間前には着替えて準備を済まし,全員外に出て雪遊びをしている」,「雨でも大雪でも関係なく外に出かけて1日中スキーをしている」,「放っておけば1日中延々と滑っている」と,子ども達はスキーが大好きで,飽きることなく興じている様子が伺えた.

 

 

◇XCスキー・スノーキャンプの様子

XCスキー・スノーキャンプでは,雪質が悪く初めての雪洞を掘るのに苦戦している様子だった.

◇富士山ソリの様子

 

富士山ソリでは厳冬期の富士山に入り,夏とは違う富士山を体験することが目的である.「年によってコンディションが全く違う」,ガスって本峰が見えない時もあるが,「雲の切れ目から時折目の間に姿を見せる大きさに子どもたちは驚く」,誰もいないこの時期は「富士山を独り占めできる」.「じっとしていると寒くなる」が,「これが本当の寒さ,気を抜けばいつでも死ねる環境であることを,子ども身をもっても理解する」.

 

 

◇バックカントリースキーツアーの様子

バックカントリースキーツアーでは毎年白馬の栂池自然園に行くが,それには理由がある。ここは夏に登山に来る場所であり,夏に実際に登っているから親近感が沸く.いつかあの斜面をスキーで滑りたいと思わせるためにここに来る.日常から非日常の偉大自然の世界へ踏み込む入口に連れてくることで,「非日常の世界と日常の世界を自分でつなぐことができる」と考えている.遠くから見れば自然園はすでに山の一部であり,さらに絵葉書のような絶景が目の前にあり,そこでスキーをすることでスキーの世界も広がる.